中小企業・個人事業主向け基礎知識 消費税の基礎知識 軽減税率

軽減税率で経理がどれだけ面倒になるか?

2019年10月から消費税が10%に増税し、さらに軽減税率も導入されます。

事業者は増税で納める税金が増えますし、軽減税率も経理上で計算が複雑になり、帳簿管理が大変に。

なぜなら、売上・仕入れに伴う商品を、一般税率(10%)と軽減税率(8%)の対象商品ごとに分けて経理しなければならないからです。

 

経理方法を変更しなければならない

消費税に軽減税率が導入されたことで、経理方法も変更する必要があります。

2019年9月までは、請求書等保存方式で経理を行っていましたが、2019年からは区分記載請求書等保存方式で経理をしなければなりません。

2019年10月からは区分記載請求書等保存方式で経理をする

区分記載請求書等保存方式とは、請求書などに記載する消費税を、一般税率(10%)と軽減税率(8%)に区分して経理をする方法です。

従来の請求書等保存方式の内容に加えて、下記の事項を請求書などに記載する必要があります。

ポイント

  • 軽減税率商品であることを帳簿及び請求書に記載
  • 税率ごとにに区分した合計した税込金額を請求書に記載

なお、区分記載請求書等保存方式が実施されるのは、2019年10月から2023年9月まで間であります。
2023年10月からは、適格請求書等保存方式(通称インボイス制度)により経理をすることになります。

 

請求書は必ず10%と8%の消費税を分けて表記する

区分記載請求書等保存方式で経理をする場合、一般税率と軽減税率の商品を別々に表示しなければなりません。


引用:国税庁 消費税の軽減税率制度に対応した経理・申告ガイド

同一業者から、消費税率が異なる仕入れた商品を仕入れた場合でも、各消費税ごとに記載をします。

また、消費税の確定申告をする際は、税率ごとの課税売上げと課税仕入れを集計し、計算します。

事業の売上や仕入れは毎日行いますので、日々の記帳から税率を区分しての帳簿管理が必要です。

消費税の申告書は決算書類からは作成することができない

軽減税率導入以後の消費税の申告書は、損益計算書などの決算書類から計算することはできません

決算書類では、消費税の8%と10%の判断ができませんので、日ごろから消費税の区分経理で申告準備が必要です。

なお、国税庁ホームページには、「課税取引金額計算表(事業所得用)」など、消費税の申告書作成書類を掲載してあるので、活用することも可能です。

参考:消費税及び地方消費税の確定申告の手引き等(国税庁)

 

軽減税率の税額計算の特例

軽減税率の導入で、消費税の確定申告書の計算は複雑になります。

そのため、中小事業者(個人事業主も含む)に関しては、期間限定で税額計算の特例制度を利用することができます。

特例制度を利用すれば、消費税の計算が楽になりますので、是非ご確認ください。

年間売上が5,000万円の事業者が対象

中小事業者の税額計算の特例は、売上の内訳を消費税率ごとに区分することが困難な中小事業者が対象です。

中小事業者とは、年間売上が5,000万円以下の事業者(個人事業主の含む)であり、5,000万円を超えた場合には税額計算の特例は適用できません。

なお、税額計算の特例は、「売上金額の計算の特例」と「仕入税額の計算の特例」が存在し、双方の特例の適用可能期間は異なりますので注意しましょう。

売上税額の計算の特例とは

売上税額の計算の特例とは、実際の一般税率と軽減税率商品の売上とは関係なく、税率を区分できる税度です。

対象期間は、軽減税率の導入が導入される2019年10月からの4年間であり、その期間中は売上税額の計算の特例が適用できます。

なお、特例は3種類の事業者に分類し、分類した事業者ごとに計算式は異なります。

⑴ 仕入れを管理できる卸売事業者・小売事業者

仕入れを管理できる事業者とは、商品をそのまま販売する卸売業や小売業が対象で、「売上げに占める軽減税率対象品目の売上の割合」と「仕入れに占める軽減税率対象品目の仕入れ割合」がおおむね一致していることが条件です。

例えば、スーパーやコンビニなどは、仕入れた商品をそのまま販売するので対象事業者となります。

<売上税額の計算式>

【小売等軽減仕入割合】=軽減税率対象品目の売上のための仕入額÷仕入総額

【軽減税率の売上額】=課税売上×小売等軽減仕入割合

⑵ ⑴の特例を適用する事業者以外の事業者

お弁当屋や飲食店など、仕入れた商品を加工して販売する事業者は、売上と仕入れに係る軽減税率の割合が異なります。

そのため、⑴の計算の特例を適用するのは適しませんので、10営業日の売上割合を案分して売上税額の計算をします。

<売上税額の計算式>

【軽減売上割合】=通常の連続する10営業日の軽減税率対象品目の売上額÷通常の連続する10営業日の売上総額

【軽減税率の売上額】=課税売上×軽減仕入割合

⑶  ⑴及び⑵の計算が困難な事業者

⑴、⑵に該当しない事業者(主に軽減税率対象品目を販売する事業者)は、消費税の益税目的での特例適用を避けるために下記の方法で、売上を案分します。

<軽減税率の区分方法>

【軽減税率の売上額】=売上額×50÷100

※益税とは、免税事業者や消費税の簡易課税制度を利用した事業者など、本来納める消費税を合法的に手元に残す方法。

 

仕入税額の計算の特例とは

仕入税額の特例の計算とは、実際の一般税率と軽減税率商品の仕入れとは関係なく、税率を区分できる税度です。

仕入税額の計算の特例対象期間は、 軽減税率が導入される2019年10月から1年間であり、売上税額の計算の特例の期間より3年間短いです。

なお、仕入税額の計算の特例は、2種類の事業者に分類されます。

⑴ 売上げを管理できる卸売事業者・小売事業者

仕入れた商品をそのまま販売する卸売業や小売業について、売上と仕入れに占める軽減税率対象品目の割合がおおむね一致している場合には、下記の計算式で軽減税率の割合を案分できます。

<仕入税額の計算式>

【小売等軽減売上割合】=軽減税率対象品目の売上額÷売上総額

【軽減税率の仕入額】=課税仕入額×小売等軽減売上割合


※簡易課税制度の適用を受けない、卸売業・小売業を営む事業者が対象。

⑵ ⑴の特例を適用する事業者以外の事業者

売上と仕入れに占める軽減税率対象品目の割合が異なる事業者は、⑴の方法では仕入税額の計算ができません。

そのため、前々年又は前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の場合には、事後選択により簡易課税制度の適用することができます。

※本来、簡易課税制度は課税対象期間の前に届出書を提出する必要があります。

<簡易課税方式の計算式>

【仕入税額】=課税売上に対する消費税×みなし仕入率

適用するみなし仕入率は、営んでいる業種により異なります。

<業種別みなし仕入率>

業種 みなし仕入率
第1種事業(卸売業) 90%
第2種事業(小売業) 80%
第3種事業(製造業等)農林・漁業、建築業、製造業など(※) 70%
第4種事業(その他)飲食店業など 60%
第5種事業(サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 50%
第6種事業(不動産業) 40%

※2019年10月1日を含む課税期間(同日前の取引は除きます。)からは、農業、林業、漁業のうち、消費税の軽減税率が適用される飲食料品の譲渡に係る事業区分が第3種事業から第2種事業へ変更されます。

 

2019年10月以降の消費税の免税事業者への影響

消費税の免税事業者は、売上が1,000万円以下の事業者です。

免税事業者に該当した場合、消費税を申告・納付する必要がありませんので、消費税の増税後も引き続き消費税の申告手続きは不要です。

ただし、免税事業者でも、取引相手が課税事業者の場合には、請求書などの書類管理を行う必要があります。

また、2023年からのインボイス制度が施行した場合、免税事業者への事業への影響が大きいため、課税事業者への切り替えの検討も必要です。

課税事業者から区分記載請求書等の交付を求められる

消費税の申告をする場合、経費に相当する仕入税額控除の計算が必要となります。

免税事業者は、消費税申告が不要なため、仕入税額控除の計算を行うことはありません。

しかし、取引相手の課税事業者は、仕入税額控除を行うために区分経理に対応した帳簿及び区分記載請求書等の保存が必要です。

そのため、取引相手から区分記載請求書等の交付を求められる場合には、免税事業者であっても必要事項を記載した請求書を発行しなければなりません。

インボイス制度が実施されると適格請求書の交付を求められる

2023年10月からは、適格請求書等保存方式(インボイス制度)が実施されます。

インボイス制度が導入されると、適格請求書の交付及び保存をしなければ、仕入税額控除を適用することはできません

適格請求書は、区分記載請求書と異なり、税務署に事前に届出書を提出した適格請求書発行事業者のみが発行可能な請求書です。

なお、免税事業者は届出書を提出することはできません

適格請求書を交付できない免税事業者からの仕入れた商品の消費税は、仕入税額控除の対象外です。

そのため、課税事業者は仕入税額控除を適用するために、適格請求書を交付できる事業者のみと取引するようになる可能性があります。

 

 

税理士に依頼する場合には早めに連絡すること

2019年(令和元年)の確定申告から、増税や軽減税率を適用した確定申告書を作成することになります。

軽減税率は、初めての導入された制度なので、確定申告期間には税理士に依頼してこなかった事業者も申告書作成依頼をする可能性があります。

税理士が作成できる申告書には限度がありますので、申告期限直前に依頼しても断れる可能性もあります。

税理士に依頼される際は、早めに連絡をして確定申告対策をしましょう。

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